2014年1月20日月曜日

僕らのミライへ逆回転

僕らのミライへ逆回転
Be Kind Rewind
2008年 アメリカ 102分
監督:ミシェル・ゴンドリー

一説によるとニューヨークからゴミを捨てにいくために存在しているというニュージャージーの打ちひしがれた町の打ちひしがれた一角に、ファッツ・ウォーラーを敬愛する老人フレッチャーが営むレンタルビデオの店があり、VHSのビデオを一本1ドルで貸し出していたが、フレッチャーの留守中に近所に住む廃品回収業者で少なからず壊れている男ジェリーが恐るべき磁性を帯びて現われ、店内のビデオを全滅させる。店の留守を預かるマイクは顧客の求めるビデオを貸し出すために駆け回るが、どこを探そうといまどきVHSがあろうはずもなく、意を決して店の奥からカメラを取り出し、同じタイトルで自前の映画を撮り始める。そして出来上がった短編映画をハリウッドメジャー作品のパッケージに図々しく押し込んで貸し出したところ、これが意外にも大好評で、これのリメイクも見たい、あれのリメイクも見たい、という要望が寄せられるので、店はかつてない繁栄を謳歌することになるが、すでにその頃、行政当局は老朽化を理由に店の取り壊しを決定しており、映画業界もリメイク作品の粗製乱造をやめさせるために法に訴え、とどめを刺されたフレッチャー老人を励ますために、マイクたちは残された時間でファッツ・ウォーラーの伝記映画を作り始める。
マイクがモス・デフ、ジェリーが例によって騒々しいジャック・ブラック、フレッチャー老人がダニー・グローヴァー、で、顧客の一人がなつかしや、ミア・ファローである。ある種のにぎやかさを持つ映画だが、根底にあるのは「実はどこにも逃げ場がない」という認識であり、表面に見える温かみに反して流れているものはどこか暗い。マイクたちのリメイクはクライマックスに登場するファッツ・ウォーラーの伝記映画の下準備であり、つまり、逃げ場のない人間が最後に選択する自己表現手段の形成過程なのである。劇中に登場するこの伝記映画はどこか滑稽だが、不思議な美しさを備えている。ジェリーの役がジャック・ブラックではなくて、たとえばベン・スティーラーあたりだったら、もう少し口当たりのよい映画になっていたかもしれないが、もしかしたら、そうしないためのキャスティングだったのかもしれない。 


Tetsuya Sato