2014年12月8日月曜日

Plan-B/ 影

S1-E21
 男は休暇を取って、妻と息子と一緒に海へ出かけた。海辺のホテルに部屋を取って新鮮なシーフードを並べた夕食を取り、翌日は早めに起きてボートを雇った。船長は釣りの穴場を知っていると請け合って、ボートを真っ直ぐに沖へ進めた。海が青い。船長がボートを停めると、男は借りてきた道具で釣りを始めた。釣りなど一度もしたことがなかった。竿の使い方がわからない。餌をどうするのかもわからない。なにもできない夫を妻がからかい、小さな息子が父親をかばう。男は船長に助けてもらって釣り糸を垂れた。待ってもなにもかからない。息子が舷側から身を乗り出した。言葉にならない声を上げて洋上の一点を指差した。妻が立ち上がって息を呑んだ。船長はブリッジへ飛んで双眼鏡を目に当てた。男は釣竿から手を放してそれを見た。巨大な黒い影が海面の下を進んでくる。形はオタマジャクシを思わせたが、大きさはボートの三倍に近い。それは音もなく近づいてきて、ボートの真下をくぐり抜けた。妻は息子を抱き寄せた。男は妻の肩を抱いた。それは大きな弧を描いて沖のどこかへ消えていった。なんだったのか、と男はたずねた。船長は肩をすくめて首を振った。

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