2014年4月12日土曜日

ローリング・サンダー

ローリング・サンダー
Rolling Thunder
1977年 アメリカ 95分
監督:ジョン・フリン

合衆国空軍のネイサン・レイン少佐はベトナムでの七年間にわたる捕虜生活のあと、解放されて故郷のサンアントニオに凱旋して妻子との再会を果たし、地元から暖かい歓迎を受けるが、薄暗い捕虜生活のせいですっかり目が弱くなったレイン少佐はサングラスなしには外を歩くことができないし、部屋も暗くしておかなければ気が済まない、という状態で、しかも心の根っこはどうやらハノイの収容所に残したままのようなので、しきりと気をつかう周囲とはどうにも歯車がかみ合わないし、妻は留守のあいだの友人の警官と関係を持っていたようだし、息子もまた友人の警官と親密な関係を結んでいるようだし、だから帰郷のお祝いに地元有志からたくさんの銀貨をもらってもキャデラックをもらっても、レイン少佐の帰郷をひたすらに祈っていたかわいらしいウエイトレスからキスをしてもらっても本人は変わらずに心を閉ざしたままで、そこへ銀貨を狙って現われた無頼漢どもがレイン少佐に襲いかかって銀貨の隠し場所を聞き出すために拷問を加えるとレイン少佐の頭はすぐさまハノイの捕虜収容所へ飛んでゆき、レイン少佐があくまでも口を割ろうとしないので捕えられた妻子は犠牲になり、レイン少佐はディスポーザーで片手を失い、病院で目覚めたレイン少佐は警察の前で口をつぐみ、一人になると義手の爪を使ってリボルバーに弾を込める練習を続け、退院すると息子から送られた散弾銃の銃身を切り詰め、キスをしてくれたウエイトレスをキャデラックに乗せてメキシコを目指して手がかりを頼りに無頼漢一味の所在を探り、居場所を突き止めると捕虜仲間だった陸軍のジョニー・ヴォーデン伍長に声をかけ、家族とともに平和に暮らしていたヴォーデン伍長はすぐさま誘いに乗って制服に着替えて武器を取り、二人でメキシコの売春宿に殴り込む。 
脚本がポール・シュレイダー、レイン少佐がウィリアム・ディベイン、ヴォーデン伍長がトミー・リー・ジョーンズ。冒頭、レイン少佐とヴォーデン伍長を乗せたリアジェットが空港に到着し、そこに主題歌『わが町サンアントニオ』が流れるところでなぜかいつも胸がいっぱいになる。ベトナム帰還兵という素材を扱ったものの形式としては公開当時すでに新しくはなかったはずだが、ポール・シュレイダーらしい脚本とジョン・フリンの目配りの行き届いた演出によって成熟した作品に仕上がっている。ベトナム帰還兵と暴力の接点が複雑で、その関係性のなかで暴力自体が実はそもそも遍在しているというあたりまえの指摘は重要であろう。 
ウィリアム・ディベインがすばらしい。どこで見かけても見栄えがするいい俳優だが、この映画のために生まれてきたひとではないかと思うことがある。そして忘れることができないのがウエイトレス役のリンダ・ヘインズで、とにかくその演技がすばらしい。ジョン・フリンという監督は俳優から魅力を引き出すのがほんとうにうまい。 


Tetsuya Sato