2013年8月25日日曜日

ローン・レンジャー

ローン・レンジャー
The Lone Ranger
2013年 アメリカ 149分
監督:ゴア・ヴァービンスキー

地方検事としてテキサスに赴任してきたジョン・リードは凶悪犯ブッチ・キャベンディッシュの脱獄騒ぎに巻き込まれてコマンチ族のトントと知り合い、テキサス・レンジャーをしている兄のダン・リードとともにブッチ・キャベンディッシュを追跡するが、テキサス・レンジャーはブッチ・キャンベンディッシュの待ち伏せにあって全滅してジョン・リードは白い馬を媒介にして死から逃れ、トントに与えられたマスクをつけるとローン・レンジャーとなってブッチ・キャベンディッシュの後を追い、その背後ではどうやら自然がバランスを失っていて凶暴化したウサギの群れが肉にむしゃぶりついている。
ローン・レンジャーが『白雪姫と鏡の女王』の王子様アーミー・ハマー、トントがジョニー・デップ、トム・ウィルキンソンとウィリアム・フィクトナーがまさかの兄弟で、ローン・レンジャーの誕生を扱いながら人物の配置とプロットはセルジオ・レオーネの『ウエスタン』に粘着し、ハンス・ジマーの音楽もウィリアム・テル序曲をシャッフルしながらいつの間にかモリコーネしていて、見終わったときには頭がすっかりレオーネ/モリコーネ変換されている。ただヴァービンスキーによる処理はきわめてモダンで、見た目はレオーネに粘着していてもレオーネの背後からダリオ・アルジェントを引っ張り出しているような気配があり、そしてモニュメントバレーがおそらくはなにかしらのメタファーで満たされているという点で『ランゴ』をそのまま引き継いでいるし、クライマックスの連続活劇から抜け出してきたような壮絶な列車アクションは『ランゴ』の幌馬車対プレーリードッグの延長線上にあるように見え、あのワルキューレはつまりこのウィリアム・テル序曲の前奏だったのか、とつい考えたくなってしまうが、ともあれものすごい傑作なのは間違いない。ディズニー/ブラッカイマーというメジャーなプロダクションからここまで作家性に富んだ、というか、好き放題に作り込まれた、というか、多分に病的な作品が生まれてくる、というのがいささか信じがたい。
コマンチの突撃シーンは涙もの。ディズニー的に登場していきなり牙をむき出すウサギさんたちがものすごかった。 

追記:『ウエスタン』に粘着している、と書いたけれど、たぶん違う。この映画のすごさはたぶん構造的な正確さにある。背景世界は我々が考えている西部ではなく、それをベースにした人工的な構築物であり(これはつまり見たまんま)、そこに埋め込まれたレオーネ的な要素は構造を補完しているだけで、おそらく重要なものではない。そして人工的な構築物はおもに抑圧的な機能を備え、クライマックスの多幸症的な狂騒に対置されている。
Tetsuya Sato