2013年3月30日土曜日

キック・オーバー

キック・オーバー
Get the Gringo
2012年 アメリカ 95分
監督:エイドリアン・グランバーグ

警察に追われた男がテキサス、メキシコ国境を強引に突破してメキシコへ逃れ、男を捕らえたメキシコの警察署長(腐敗している)は男の車に大量の札束があることに気づいて男をアメリカ側(腐敗している)へ引き渡す代わりに適当な罪でメキシコの刑務所へぶち込んで200万ドル相当のこの札束を懐に入れ、刑務所にぶち込まれた男のほうは少々、というか、かなり風変わりな刑務所の様子(囚人がふつうに銃を持っている、囚人が家族を呼び寄せてふつうに家庭生活を営んでいる、実際のところその辺の盛り場と変わりがなくて、もちろん商売をしている囚人もいるしヘロインもふつうに売っているし、どうやら看守はことごとく買収されていて、特権囚は女をはべらせて刑務所内のカジノで遊んでいる)に驚きながら行動を開始し、まずゴロツキを叩きのめして武器と金を奪い取り、それから刑務所の支配構造を探り出し、そうしていると例によって200万ドルではなくて実はン百万ドルあったはずの金の持ち主が子分を送り込んでとにかく冷酷非情に回収に取りかかるので、やばい金だということに気づいた警察署長があわて始め、刑務所の事実上の支配者である特権囚の一族も一件に気がついて男に近づき、特権囚一族の頭目が自分の肝臓移植のためにドナーの少年を刑務所内に「保護」していることを知った男は自分なりの方法で一連の状況をまとめにかかり、現われた追っ手は恥ずかしげもなくピストルを抜いて刑務所の中庭を血の海に変え、メキシコ政府はこのほとんど悪の牙城のような刑務所を閉鎖するために軍隊を差し向け、銃撃戦の真っ最中だというのに特権囚一族の頭目は少年を捕らえて肝臓移植に取りかかる。 
最後まで無名の男がメル・ギブソン、アメリカから追っ手を仕掛ける組織のボスがピーター・ストーメア。メル・ギブソンは良くも悪くも年齢を感じさせない仕事ぶりで、昔のままという感じで元気よく突っ走ってチンピラさながらにピストルの横撃ちをするし、組織の殺し屋は足から現われて腰の二丁拳銃をハイスピード・ショットでぶっ違いに引っこ抜く。登場人物がどれもカラフルで、手短な描写ながらそれぞれにキャラが立っていて、しかもどれもが悪賢い。舞台になる刑務所はどうやらメキシコに実在していて、閉鎖されるときには本当に軍隊が動員されたらしい。そういう背景の選択が面白いし、その背景をまったく無駄にしていない脚本がよくできている。監督のエイドリアン・グランバーグは『アポカリプト』や『ウォール・ストリート』の助監督をやっていたというひとで、これが一作目になるらしいが、絵にメリハリがあってテンポがよくて、見ごたえのある作品に仕上げている。 



Tetsuya Sato