2013年3月10日日曜日

ジャンゴ 繋がれざる者

ジャンゴ 繋がれざる者
Django Unchained
2012年 アメリカ 165分
監督:クエンティン・タランティーノ

1858年のテキサスで二人組の奴隷商人が少数の黒人奴隷を護送していると、そこへキング・シュルツと名乗る歯科医が現われて黒人奴隷のひとりジャンゴを自分に売るように求め、奴隷商人が銃を取って威嚇するとキング・シュルツは奴隷商人を殺害、ジャンゴを解放して賞金稼ぎという正体を明かして協力を求め、キング・シュルツとジャンゴはコンビを組んで賞金首多数をあの世に送り、売り払われたジャンゴの妻を救い出すために農場主カルビン・キャンディに正体を偽って接近するが、カルビン・キャンディの召使い頭に意図をあばかれる。 
主題歌(英語版だけど)も一緒で主人公の名前もジャンゴで、なぜかフランコ・ネロまでゲスト出演で登場するが、66年の『ジャンゴ』とはまったく関係がないし、それを言えばマカロニ・ウエスタンとも西部劇ともおそらくほとんど関係がない。『真昼の死闘』や『怒りの荒野』のサウンドトラックからの引用もおそらくネタ以上の意味はない。
反奴隷制度というひどく唐突なキーワードがどこから出現したのかを考えると、ヤコペッティの、たしか『世界残酷物語』だかにもぐり込んでいた19世紀アメリカ南部奴隷社会編の西部劇的なリメイクということになるのではあるまいか。タランティーノ的なスタイルは玄人仕事で作られた娯楽映画としてのマカロニ・ウエスタンというよりもキワモノ的なモンドムービーのほうが親和性が高いような気がしないでもない。適当なフレームの上にスタイルを乗せるのはいたって当たり前のやり方であり、そのスタイルが確実にオリジナリティを発揮しているという意味では間違いなくタランティーノの作品だが、洗練された監督が8フレームで済ませることをいちいち5分かけてやる、というのスタイルには、実を言うとそろそろ我慢できなくなっているし、ダイアログと暴力描写の組み合わせという安定したスタイルはその先のひねりがないので、もはや面白みが感じられない。
クリストフ・ヴァルツは単調なキャラクターながら魅力的な演技を披露しているし、ディカプリオも悪くないが、このふたりがそろって退場してしまうと、同じように単調なキャラクターのジェイミー・フォックスひとりではとても穴が埋められない。小ネタでいろいろと面白いところはあるものの、全体としては構築性に乏しくて、この鑑賞体験はちょっと絵の上手な小学生のスケッチブックをだらだらと眺めているような感覚に近い。わたしにはかなり退屈であった。 
Tetsuya Sato