2016年2月15日月曜日

トポス(103) ヒュン、クロエと再会してネロエに導かれる。

(103)
 蛮族が暮らす町の広場で、クロエとキュンはヒュンを見つけた。赤い羽根飾りがついた帽子をかぶって、腰に剣を吊るしてぶらついていた。蛮族の娘を見ると笑みを浮かべて声をかけ、蛮族の男を見ると剣を抜いて斬りかかった。ヒュンが剣を抜いて斬りかかるとまわりの男たちも剣を抜いて、相手かまわずに斬りかかった。剣戟の音が広場に響き、しばらくのあいだ打ち合ってから全員で酒場にもぐり込んで飲み始めた。ヒュンも蛮族のおごりで酒を飲んだ。酔っ払うとテーブルの上に立って剣を抜いた。
「俺は運命を受け入れている。俺は世界を救う英雄になる。だから俺は邪悪な黒い力と戦うんだ」
 クロエが酒場に乗り込んでいった。ショットガンを腰で構えて、ヒュンの頬を平手で打った。
「飲んだくれ」クロエが叫んだ。
 ヒュンがクロエの頬を叩いた。
「ろくでなし」クロエが叫んだ。
 ヒュンがクロエの頬を叩いた。
「あんたなんか、死んじまえ」
 クロエがショットガンをヒュンに向けた。
「俺には、おまえだけなんだ」
 ヒュンがクロエを抱き寄せた。クロエの頬を涙が伝った。
 二人の前にネロエの姿が浮かび上がった。顔が蒼白で、背後がわずかに透けて見える。
「わたしはネロエ」とネロエが言った。「泉の精霊の力を借りて遠くからあなたがたに話しかけています。あのとき祭壇に横たえられたヒュンを、わたしは蛮族の地に送りました。あのとき祭壇で命を奪われたのは、ヒュンの身代わりとなった蛮族の男だったのです。さあ、何を待っているのですか。立ち上がるときが訪れました。邪悪な黒い力は世界をしたがえ、人々は暗黒の支配に慣れ始めています。時間はもう、残されていません。邪悪な黒い力を一刻も早く倒さなければなりません。運命が招いています。ヒュン、あなたの物語を完成させるときが来ているのです」
 ヒュンが腰の剣を抜き放った。
「俺は運命を受け入れている。俺は世界を救う英雄になる。だから俺は邪悪な黒い力と戦うんだ」

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