2015年7月14日火曜日

Plan-B/ 病人

S6-E28
病人
 取り柄のない村で生まれた若者が七つの村の向こうにある大きな町を訪れた。そこには多くの病人がいて、着の身着のままの姿で長い壁に沿って横たわって、残された命をわずかな希望でつないでいた。その先に用があった若者は壁に沿って軽い足取りで進んでいって、長く伸びた病人のからだにつまずくとそのたびに顔をしかめて、立て、歩け、と罵った。若者に罵られた病人は立ち上がって歩き始めた。脚がすっかり萎えた者も、瀕死で身動きできない者も、次々と立ち上がって歩き始めた。その様子を見たほかの病人が若者に向かって手を差し伸ばして、どうか自分を罵ってくれと懇願した。しかし若者は首を振ってこう答えた。立て、歩け、と罵るかわりに、あなたがたは癒された、とわたしは言う。なぜならば、立て、歩け、と罵られるよりも、癒された、と言われるほうが心に容易だからである。

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