2014年3月5日水曜日

フィクサー(1968)

フィクサー
The Fixer
1968年 アメリカ 132分
監督:ジョン・フランケンハイマー

帝政末期のロシア。ペテルスブルクにはすでにラスプーチンがいるらしい。キエフでひとりのユダヤ人が逮捕され、殺人の嫌疑で未決囚として投獄される。殺人事件には最初から政治的な解釈が加えられていて、国家の目的は容疑者の検挙にではなくユダヤ人排斥運動の前進にある。逮捕されるユダヤ人がアラン・ベイツ、妙に親切な(しかし怪しい)検察官がダーク・ボガート、もうひとりの、そして悪意に満ちた検察官がイアン・ホルム、法務大臣がデビッド・ワーナーという素晴らしいキャスティングで、しかも全員が実に見事にはまっている。特に純白の衣装に身を包み、さらにヌビア人の召使いを抱えていた法務大臣デビッド・ワーナーはなんだかすごい。フィクサーというタイトルは修理人を意味しており、それはそのまま獄中にいる囚人アラン・ベイツの職業でもある。
スピノザ的な理想を掲げて世界を修理するという主題が見え隠れするが、マラマッドの原作がそうなのか、ドルトン・トランボの脚本だからそうなったのか、その成果は現代的かつ一般的なヒューマニズムの賛歌となって結実する。実によくできた映画だが、ただアラン・ベイツがユダヤ人である必要性は必ずしもなかったような気もしないでもない。囚人が獄中で瞑想に入り、最終段階で昇天してしまうようなカバラ的飛躍をなんとなく期待してしまったこちらとしては結末は少々味気ない。
Tetsuya Sato