2013年5月28日火曜日

たそがれ清兵衛

たそがれ清兵衛
2002年 日本 129分
監督:山田洋次

出羽海坂藩の平藩士井口清兵衛は妻に労咳で先立たれ、借金のほかにも惚けた母親と二人の娘を一人で抱えて苦しい生活を強いられている。同僚とのつきあいもことごとくを断り、夜の時間は虫かご作りの内職に費やし、風呂に入る間もない有様で悪臭を漂わせながら無精髭を顔にたくわえ、着物に裂け目ができて足袋に穴が空いてもつくろう手段がないような有様であったが、一方、子供たちの成長を間近に眺めて幸せを味わい、庭を畑に変えて百姓仕事に精を出していると、自分には百姓があっていると実感する。そうした日々を送るうちに、ある日のこと、旧友飯沼の妹朋江が前に現われる。朋江は嫁ぎ先に離縁して実家にもどったところであった。幼なじみの二人は旧交を暖め、日没の後、清兵衛は朋江を家に送る。そこでは朋江の前夫が酒の勢いにまかせて旧友飯沼に喧嘩を売っており、来合わせた清兵衛は代人として名乗りを上げると、その場で果たし合いの日時が定まってしまう。相手は使い手ということであったが清兵衛はそれを木刀で打ち据え、噂はたちまち藩内に広まってあれは使い手であったかという噂が流れていく。以来、朋江は清兵衛の家に頻繁に出入りするようになり、やがて清兵衛は旧友飯沼から朋江との結婚話を持ち込まれるが、清兵衛は五十石取りの平藩士の生活の辛さを理由に話を断る。朋江が清兵衛を訪ねることはなくなり、跡目問題で藩内は騒然となり、権力争いが終結を見て城代家老が新たに決まると、その城代から藩命が下り、清兵衛は使い手で知られた一人の藩士を切らなければならなくなる。そこで清兵衛は朋江を呼び寄せて支度を頼み、自らの胸の内を朋江に伝えて戦いの場へとおもむくのであった。
藩士の生活というのを淡々と描いて、そのあたりの描写はなかなかに興味深い。真田広之、宮沢りえは非常によい演技をしていると思うし、場面の一つひとつがきちんとこなされているのはやはり監督の力量であろう。生活描写はとにかく魅力的なのである。それだけにドラマの作りの悪さが残念でならない。娘のナレーションを主軸にした外枠はおそらく完全に不要な部分である。妻に先立たれて、という部分もおそらく不要であろう。生活が大変で、という説明の口実にしかなっていないし、朋江ちゃんが好きだったんでがんす、では死んだ妻の立つ瀬がない。清兵衛の生活をもっと平坦なものにして、話を絞り込んで20分短くしたら傑作になっていたかもしれないと思うのである。 


Tetsuya Sato