2016年3月6日日曜日

マネー・ショート

マネー・ショート
The Big Short
2015年 アメリカ 130分
監督:アダム・マッケイ

いわゆるリーマン・ショックを扱ったマイケル・ルイス『世紀の空売り』の映画化で、監督・脚本は『アザー・ガイズ』などのアダム・マッケイ。サブプライムローンが破綻する可能性に最初に気づいて不動産抵当証券に対するクレディット・デフォルト・スワップを提案し、その大量買いを始めるトレーダーのマイケル・バウリがクリスチャン・ベイル、その情報を間違い電話から知って不動産市場の現況調査に乗り出し、不動産市場が業界の風評に反してバブル状態にあることを突きとめる投資会社の社長マーク・バウムがスティーブ・カレル、ウォール街を早期退役してオーガニックな生活をしているものの、小規模ヘッジファンドに担ぎ出されて状況に関わることになるベン・リカートがブラッド・ピット、空売りの影の立役者でドイツ銀行のジャレッド・ベネットがライアン・ゴズリング。映画は物語的枠組みをほぼ放棄して一種のドキュメンタリーとして構成され、短いカットとモンタージュを多用することで原作ですらうまく盛り込めなかった当時の狂乱状態を描き出し、ライアン・ゴズリングを狂言回しにすえて各所に怪しげな「解説」を置き、あまりにも不可解で誰にも理解できない金融取引の仕組みをきちんと説明することに成功している。クリスチャン・ベイル扮するマイケル・バーリの(気がつくのがたぶん早すぎたせいで)ただもう追いつめられていく精神状態、スティーヴ・カレル扮するマーク・バウムの一貫して異様な、というか正常な倫理観、ライアン・ゴズリング扮するジャレッド・ベネットのきわめて自覚的な屑野郎ぶり、といずれもたくみに造形され、すべてが見事に動いてモダンな国際金融の虚構性を暴露する。同じ空間を扱いながら、オリヴァー・ストーンが何もわからないままでっち上げた『ウォール・ストリート』とは対照的な作品であり、現存する悪夢を正面から描いたコメディである。傑作。美しいケースに"Deutsche Bank"のロゴが入ったあの積み木がほしい。

Tetsuya Sato