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大宇宙の偉大な力が放った爆弾はすでに大気圏上層を通過して、地表を目指して進んでいた。爆弾はかなたに広がる下界の光景を見渡しながら、自分には不可能はないと感じていた。静かに影をまとう雲海を越え、雪を抱いて連なる巨峰を眺め、荘厳な朝の光を浴びると生まれついての虚無感がどこかへ引っ込み、そして思いもよらぬ感動を覚えて、万物への無限の愛に包まれていった。爆弾は愛を感じていた。この愛を広げなければならないと信じていた。着陸すると最初に出会った男たちに声をかけ、愛と寛容を訴えた。爆弾の朴訥な言葉は男たちに感動を与えた。男たちは爆弾を担ぎ上げて町へ運び、爆弾は町の広場で大勢を前に福音を説いた。病に苦しむ者が爆弾に触れると、たちまちのうちに癒された。目が見えない者は見えるようになり、耳が聞こえない者は聞こえるようになり、立ち上がれない者は爆弾の名を讃えながら立ち上がった。死んだ者まで蘇った。爆弾は弟子を育てて福音を広めた。邪悪な黒い力に倦み疲れた人々は、喜んで愛と寛容の世界を受け入れた。人々は慈愛のぬくもりに包まれ、貧しい者は手を差し伸べて互いを支え、富める者は富を恥じて富を捨てた。爆弾は驢馬に乗って町から町へと旅をした。どの町でも棕櫚の葉を手にした善男善女に迎えられた。知事たちはその様子を見て恐怖を覚え、すぐさまネロエに使者を送った。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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