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クロエは山羊ヒゲの男を捜していた。山羊ヒゲの男を捕えて背後関係を調べる必要があった。山羊ヒゲの男は邪悪な黒い力とつながっている、とクロエは考えていた。山羊ヒゲの男を捕えて線をたどれば、恐るべき陰謀の正体が明らかになる、とクロエは考えていた。クロエは単独で行動して、山羊ヒゲの男の隠れ家を見つけた。夜になるのを待って塀を越え、家の中に忍び込んだ。気配がある。二階からかすかに音が聞こえる。クロエは足音を忍ばせて階段を上がり、寝室のドアをそっと開けた。室内は暗い。人影はない。クロエは寝台に誰もいないことを確かめてから窓辺に寄った。カーテンの隙間からバルコニーを盗み見た。山羊ヒゲの男がそこにいた。様子をうかがうクロエの前で、山羊ヒゲの男は山羊ヒゲの男の皮を脱ぎ捨てた。美しい若者の姿になって横笛を口にあてがった。星空を見上げて笛を吹き、美しい音色をあふれさせた。クロエはカーテンの陰で唇を噛んだ。夜明けまで待てば若者は山羊ヒゲの男の皮をかぶるだろう。捕えるとすればそのときだ。クロエの唇に血がにじんだ。ショットガンを構えてバルコニーに飛び出した。山羊ヒゲの男などどうでもよかった。それよりも穢れた過去を清算しなければならなかった。クロエが引き金に指をかけるのと同時に若者は笛を捨てて翼を広げた。クロエのショットガンが火を噴いた。若者はすばやく飛び上がって弾をかわした。
「愚かな女め。あと一晩、あと一晩で、呪いを解くことができたのに」
若者の姿が鳥に変わった。大きな黒い鳥になって、翼で風を捕えて夜に空に舞い上がった。どこまでも高く飛んで、とうとう地球の大気圏を離脱して、月に向かって飛んでいった。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
「愚かな女め。あと一晩、あと一晩で、呪いを解くことができたのに」
若者の姿が鳥に変わった。大きな黒い鳥になって、翼で風を捕えて夜に空に舞い上がった。どこまでも高く飛んで、とうとう地球の大気圏を離脱して、月に向かって飛んでいった。
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