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数日すると奇妙な噂が流れ始めた。十字架にかけられた爆弾が息絶えると国王の玉座の背後の壁に亀裂が走り、それと同時に町から邪悪な黒い力の気配が消えたという。空気が軽くなり、呼吸が楽になり、それまで悪辣であった多くの者が、いまは息苦しさを失って呆けているという。多くの者が空を指差して声を上げた。垂れ込めていた暗雲が裂けて、太陽の光が射し込んでいた。大地が明るさを取り戻し、人々は顔を希望で輝かせた。爆弾が奇跡を起こしたのだと人々は信じた。邪悪な黒い力の影を爆弾が追い払ったのだと人々は信じた。噂によれば、爆弾は三日後に復活したという。そしてその三日のあいだに地獄を訪れ、そこで大爆発を起こして邪悪な黒い力の眷族を残らず吹き飛ばしたという。復活した爆弾に会ったと言う者もいた。話をしたと言う者もいた。昇天するところを見たと言う者もいた。噂を疑う者たちが爆弾の遺体を納めた墓を開いた。そこには麻の布だけが残されていた。噂が広まるにつれて国王とその一味に対する疑念も広がり、国王とその一味の過去の所業が次々に暴かれ、国王とその一味が実は邪悪な黒い力の手先であるという新たな噂が流れ出すと、どこからともなく復活を遂げたドラゴンが大学に戻って扇動を始めた。地下新聞を作って配り始めた。壊滅したはずの革命派が息を吹き返して細胞を工場や炭鉱に送り、ストライキ委員会を結成した。腐った種が芽吹いている、とクロエは思った。不穏な蔦が国家に絡みついている、とクロエは思った。いまのうちに焼き払わなければならなかった。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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