2016年3月3日木曜日

トポス(120) 魔女に死を、我々に自由を。

(120)
 男たちが赤い旗を振って広場に現われ、山羊ヒゲを生やした黒服の男が台に上がった。眼下の群集に向かって拳を振り上げ、聞けっと叫んで唾を飛ばした。
「同志諸君、いまこそ決起せよ。労農大衆の力を結集し、祖国をあの魔女の圧政から解放するのだ。あの魔女とあの魔女の理不尽な魔法の力から、我々自身を解き放つのだ。そして同志諸君、誰もが好むままにそこに居続けるという当たり前の権利を回復するのだ。思い出すがいい。あの魔女の気まぐれによっていかに多くの人々が飛ばされたかを。いかに多くの人々が見知らぬ場所で帰る手段を失ったかを。我が国は、非科学的な魔法の力をもはや必要としていない。魔法による恐怖の支配を必要としていない。革命の理念に賛同する者はあらゆる自由を与えられる。だが革命の理念に賛同しない者は敵として扱われることになるだろう。わたしはすでに国家非常委員会の委員を任命した。非常委員会の委員たちには無制限の権限を与えた。同志労農大衆諸君、わたしは諸君に約束する。国家非常委員会は非科学的な魔法の力などには頼らず、進歩的理念と科学的思考とによって裁判抜きの銃殺をおこない、革命の敵を滅ぼすであろう。しかし可能性のある者は集中収容所へ送られる。大衆への共感を取り戻すまで、そこで厳しい労働の日々を送ることになるだろう。同志勤労大衆諸君、諸権利を大衆の手に取り戻すのだ。立ち上がれ、そして魔女に死を、我々に自由を」

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