2016年3月29日火曜日

トポス(142) ギュンは新たな称号を求める。

(142)
 月から帰還したギュンは火を噴く山に降り立って、巨大な壁の前に立っていた。
「わたしは超人である前にまず科学者だ」とギュンはいつも話していた。「だから常に論理的に思考する。わたしは二度にわたって地球を壊滅の危機から救ったが、これは言うまでもなく世間一般の賞賛を求めてしたことではなく、科学的精神に裏づけられた論路的思考の帰結としてそうしたに過ぎない。つまりわたしと同じように科学的に思考する者なら必ずしたであろう選択を、わたしが率先してしたに過ぎない。そして言うまでもなくその成果は世間一般の最大級の賞賛にふさわしいものではあるが、その成果をもたらしたのが冷徹な論理的思考である以上、わたしは賞賛を求めようとは思わない。もし賞賛を求めれば、わたしはおそらくわたしを軽蔑することになるだろう。賞賛を受けること自体、わたしは決して厭わないが、それでもわたしはわたしを軽蔑することになるだろう。賞賛を受けた自分を決して許すことができないであろう。二度にわたって地球を救うという難事業に挑戦し、見事に目的を果たしたあと、わたしは火を噴く山に戻った。邪悪な黒い力はわたしに大元帥の称号を約束していたが、大元帥という称号はわたしにはすでにふさわしいものではなくなっていた。なにしろわたしは大宇宙の偉大な力を倒したのだ。それならば宇宙大元帥と呼ばれるべきだった。冷徹かつ客観的な評価もわたしの判断を支持していた。わたしはこの控えめな提案を携えて、火を噴く山に降り立った。邪悪な黒い力と交渉すべく壁の割れ目に近づいて、そこで驚くべき事実を発見した。壁の割れ目がなくなっていたのだ」

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