2016年3月12日土曜日

トポス(126) ヒュン、国王になる。

(126)
 ヒュンは再び国王になった。面倒なことはネロエにまかせて朝寝を楽しみ、午後になると赤い羽根飾りがついた帽子をかぶり、腰に剣を吊るして町の広場をぶらついた。ぶらつきながら通行人の顔をながめて、革命派の残党だと思うと剣を抜いて斬りかかった。告発を受けて連行される者が助けを求めて声を上げると剣を抜いて斬りかかった。よちよち歩きの子供を見かけると駆け寄っていって抱き上げて、この国の未来だ、と叫んで笑みを浮かべた。すぐに新聞記者が飛んできて、子供を抱くヒュンの姿を写真に撮った。通行人は拍手した。拍手しないと告発された。最初に拍手をやめた者は、疑わしい人物としてブラックリストに記録された。最後まで拍手をしていた者は、狡猾で疑わしい人物としてブラックリストに記録された。笑みを浮かべ続けるのに疲れると、ヒュンは子供を放り出して手近の酒場にもぐり込んだ。友達を作り、友達のおごりで酒を飲んだ。酔っ払うとテーブルの上に立って剣を抜いた。
「俺は運命を受け入れている。俺は世界を救う英雄になる。だから俺は邪悪な黒い力と戦うんだ」
 ヒュンがそう叫んだら、まわりの者は拍手しなければならなかった。拍手しないと告発された。最初に拍手をやめた者は、疑わしい人物としてブラックリストに記録された。最後まで拍手をしていた者は、狡猾で疑わしい人物としてブラックリストに記録された。

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