2016年3月17日木曜日

トポス(131) ギュンは問題を指摘する。

(131)
「わたしは常に、冷静に思考し、冷静に観察する」とギュンはいつも話していた。「だからわたしの手の中でカプセルが爆発しても、手から血がだらだらと流れても、わたしは冷静なまま思考し、観察していた。なにかしらの不具合があったのは間違いなかった。わたしはピュンを呼び戻したが、ピュンはすでに歩く死者と化していた。そして数百とも数千とも見える歩く死者の大群を引き連れていた。わたしがピュンに埋め込んだ復帰命令が歩く死者の大群に複写され、同時に大量の受け入れ命令が発行されたせいでカプセル側の受け入れプロセスが臨界に達したのだ。処理構造をなまじマルチスレッドにしていたせいで、このような事態が起こったのだ。余計なことを考えずにシングルスレッドにしていればこのようなことにはならなかったはずだが、もう後の祭りだったし、その時点ではそれは必ずしも重要ではなかった。最大の問題はピュンが歩く死者と化していて、しかもそのプロパティを第三者に継承する能力を持っていたことだ。白状すると、ピュンの回復プロセスはエイリアン・テクノロジーだけでは実現できなかった。わたしはその問題を解決するために、中世の暗黒時代に狂人が著したという禁断の魔道書を参考にしなければならなかった。ピュンの暴走と歩く死者の大量発生は想定していなかったし、ピュンに内蔵したプログラムにもこの事態に対応する例外処理出口は用意されていなかった。もちろん責任の一端がわたしにあることは否定しないが」とギュンはいつも話していた。「まず原始資料に問題があった。つまりこれは魔道書の言わばバグであり、単なる利用者であるわたしには回避できなかった、とわたしは判断した」

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