2016年2月10日水曜日

トポス(98) ピュンはギュンを追跡する。

(98)
「ギュンが変な格好をして、血相変えて走ってた」とピュンは言った。「あれは、ミュンのところの予言者が着ていた服だ。俺もミュンからもらったけど、なんかしっくりしないんで着なかった。捨ててなけりゃ、まだどこかにあると思うけど。でも、そんなことより、おっさんがどこへ向かっているのかが気になった。何かをたくらんでるのに違いないって思ったね。俺はおっさんを追って飛び出した。まわりには強制徴募隊がうようよいたけど、あいつらの目をごまかすのは簡単だった。逃げ隠れするから追われるんだ。あいつらと一緒になって、そこにいるぞ、とか、やつを捕まえろ、とか、向こうへ逃げたぞ、とか叫んでれば、まず気がつかない。俺のことを勝手に仲間だと思うんだ。制服を着てるかどうかなんて関係ない。とにかく俺はあっちこっち指差して叫びながら、裾をばたばたさせて突っ走ってくおっさんを追った。おっさんが馬車を追いかけているのはすぐにわかった。しばらくしてから、その馬車にヒュンがいるのに気がついた。馬車は兵営に向かってた。馬車が兵営の門をくぐると、おっさんもそのまま入っていった。俺も入った。兵営の庭にはすごい数のひとがいたよ。みんな、強制徴募された連中だ。あんなにたくさんの惨めな顔は、俺は見たことがなかったね」

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