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壁は火を噴く山の足もとにある、とネロエは言った。壁も割れ目も太古からあり、壁が生まれるのと同時に割れ目も生まれたとネロエは言った。邪悪な黒い力は割れ目の奥にひそみ、そこから人間に向かって悪の息吹を吹きかけていた。悪の息吹を浴びた人間は心を悪に染めて非合法の魔法玉を作り出し、それを売りさばいて利益を得ると悪の触手を四方に伸ばして経済を仕切り、行政を飲み込み、司法をしたがえ、王たちを駆逐して国家の存在を脅やかした。邪悪な黒い力は世界を穢し、世界を支配しようとたくらんでいる。残忍で狡猾な邪悪な黒い力は公務員のための年金制度をあらゆる国家から引き継いだので、すでに大半の公務員が邪悪な黒い力の支配を受け入れている。軍人年金と退役軍人向けの医療保険も整備しようとしているので、将校たちも兵士たちも、そしてもちろん予備役も、間もなく邪悪な黒い力の勢力に加わることになるだろう。それだけではない、とネロエは言った。一般市民には減税と福祉の向上を約束し、教育費の全額免除に向けて財源確保に動いている。未就学児童のための先進的な初期教育プログラムを立ち上げ、働く母親のための育児支援制度を検討し、マイノリティへの理不尽な差別に対して深刻な懸念を表明した。邪悪な黒い力の偽りに満ちた囁きに、人々は千年にわたる平和と繁栄を捨てようとしている。闇の支配を受け入れようと、愚かな心を傾けている。法律家たちは正統性に疑念を表明しているが、法律は男が作ったものだと主張するフェミニストたちは邪悪な黒い力を熱烈に支持している。時間はない、とネロエは言った。急がなければ、この世界は千年の闇に閉ざされることになるだろう。
「それでよ」キュンが言った。「前とはどこがどう変わるんだい?」
ヒュンがキュンの頬を叩いた。
クロエもキュンの頬を叩いた。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
「それでよ」キュンが言った。「前とはどこがどう変わるんだい?」
ヒュンがキュンの頬を叩いた。
クロエもキュンの頬を叩いた。
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