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伝令がやって来てネロエの前にひざまずいた。
「国王陛下がご帰還召されました」
「そのことなら、知っていました」
「この喜ばしい知らせを誰かが携え、わたしよりも先にお知らせしたのでしょうか。それとも耳ざとい小鳥の群れが舞い降りて、そのお心にささやいたのでしょうか。あるいはうたた寝のあいだの夢に幻をご覧になったのか、それとも知らせを得る必要もなく、そもそもあらゆることにお詳しいのか」
「松明の炎のまたたきがひとの目や口よりも雄弁に語り、昨夜のうちに知らせを運んできたのです。各地に置かれた見張りの者が道を見張り、旅人が肩を休める木陰を見張り、獲物を求める獅子のように一つの影を探し求め、探し当てた目ざとい者が夜空に向かって最初の松明を掲げると、合図を認めた者が自分の松明を掲げて次の者に合図を送り、次の者から次の者へと、息切れを知らない火の伝令をこの国に向かって走らせたのです。わたしは知らせを受けて祭壇の前に立ちました。そして残る道中のご無事を祈願しました。するとそこへ古老たちがやって来て、なぜ祭壇の前にいるのか、何を祈っているのかとたずねたのです。わたしはいまお話ししたことを、そのままの言葉で古老たちに伝えました。古老たちは笑いました。小さな炎のまたたきを見て、疑問も抱かずにただ思い込みで判断を下すとは、女の気持ちから出る女の浅知恵であると言って笑ったのです。女の身であるわたしをあざけり、笑ったのです。わたしは邪悪な黒い力の影を感じました」
「そのようなところにまで邪悪な黒い力の影を感じていては、この世の中は成り立ちません。女の知恵は浅いもの、そして古老たちにはまず敬意を払うもの。ところで古老たちはいまどこに?」
「気になるのですか?」
ネロエが呪文を唱え始めた。
Copyright c2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
「国王陛下がご帰還召されました」
「そのことなら、知っていました」
「この喜ばしい知らせを誰かが携え、わたしよりも先にお知らせしたのでしょうか。それとも耳ざとい小鳥の群れが舞い降りて、そのお心にささやいたのでしょうか。あるいはうたた寝のあいだの夢に幻をご覧になったのか、それとも知らせを得る必要もなく、そもそもあらゆることにお詳しいのか」
「松明の炎のまたたきがひとの目や口よりも雄弁に語り、昨夜のうちに知らせを運んできたのです。各地に置かれた見張りの者が道を見張り、旅人が肩を休める木陰を見張り、獲物を求める獅子のように一つの影を探し求め、探し当てた目ざとい者が夜空に向かって最初の松明を掲げると、合図を認めた者が自分の松明を掲げて次の者に合図を送り、次の者から次の者へと、息切れを知らない火の伝令をこの国に向かって走らせたのです。わたしは知らせを受けて祭壇の前に立ちました。そして残る道中のご無事を祈願しました。するとそこへ古老たちがやって来て、なぜ祭壇の前にいるのか、何を祈っているのかとたずねたのです。わたしはいまお話ししたことを、そのままの言葉で古老たちに伝えました。古老たちは笑いました。小さな炎のまたたきを見て、疑問も抱かずにただ思い込みで判断を下すとは、女の気持ちから出る女の浅知恵であると言って笑ったのです。女の身であるわたしをあざけり、笑ったのです。わたしは邪悪な黒い力の影を感じました」
「そのようなところにまで邪悪な黒い力の影を感じていては、この世の中は成り立ちません。女の知恵は浅いもの、そして古老たちにはまず敬意を払うもの。ところで古老たちはいまどこに?」
「気になるのですか?」
ネロエが呪文を唱え始めた。
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