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「ヒュンが運ばれていくのをわたしは見た」とギュンはいつも話していた。「その瞬間、千載一遇の機会が訪れたのだと直感した。わたしはすぐさま部屋に戻って、予言者の衣装を取り出した。ミュンと仕事をしていたときに、制服としてミュンから与えられたものだった。粗織りの生地で、縫製もぞんざいで、見た目にも着心地が悪そうだったし、なによりもわたしの趣味にあわなかった。だから一度も袖を通したことがなかったが、捨てずに取っておいたのは、これがいつか役に立つ日が来るかもしれないと考えたからだ。まさしくその日がやって来た」とギュンはいつも話していた。「わたしは予言者の衣装を身にまとってすぐに外へ飛び出した。まわりには強制徴募隊が山ほどもいたが、彼らは予言者の衣装を着たわたしにはほとんど注意を払わなかった。しかし、これは意外なことではない」とギュンはいつも話していた。「冷酷非情な徴募隊も所詮は観念の奴隷であり、先入観にしたがって判断を自動化させていた。彼らが求めていたのは徴兵可能な市民であって、予言者の格好をしたアウトサイダーではなかったのだ。わたしはこれを見越していた。だからわたしは強制徴募隊にわずらわされることなく、まっすぐにヒュンを追うことができたのだ」とギュンはいつも話していた。
Copyright c2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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