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予言者たちが道に並んで、声をそろえて終わりの始まりを叫んでいた。
「世界が終わる」
「終末に備えよ」
「この声を聞け」
予言者たちが人々の耳に口を近づけ、聞けっと叫んで唾を飛ばした。
「千年にわたる平和と繁栄の時代が、いままさに終わろうとしている。壁の割れ目に巣食う邪悪な黒い力がこの世界を悪と穢れで染めようとしている。間接税がニパーセント下がったと言って、児童福祉の適用枠が拡大され、確定申告の必要経費枠が少しばかり大きくなったと言って、愚かなおまえたちは喜んでいるが、忘れるな、一切が無法におこなわれていることを。行政機関も手続きも、何も変わりがないと愚かなおまえたちは抗弁する。司法書士も弁護士も、前と同じ料金を取る、と愚かなおまえたちは主張する。だが、それはおまえたちの目にそう見えているだけなのだ。同じように見えたとしても、一切は無法の上に成り立っている。行政機関にも手続きにも、いまや前と同じ根拠はない。司法書士も弁護士も無法に料金を定めている。そしておまえたちは無法に定められた料金を無法に支払い、無法に働いて無法に報酬を受け取り、無法に買い物をして、無法に税金を払っている。世界は邪悪な黒い力の陰に沈み、骨の髄まで悪に染まった。無法の時代が始まったいま、ありとあらゆるものが無法となった。犯罪が無法であるように、善意によるおこないも無法となり、両者の区別はなくなった。聞けっ。愚かなおまえたちはよく聞くがいい。世界は千年続く闇に閉ざされようとしているのだ」
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
「世界が終わる」
「終末に備えよ」
「この声を聞け」
予言者たちが人々の耳に口を近づけ、聞けっと叫んで唾を飛ばした。
「千年にわたる平和と繁栄の時代が、いままさに終わろうとしている。壁の割れ目に巣食う邪悪な黒い力がこの世界を悪と穢れで染めようとしている。間接税がニパーセント下がったと言って、児童福祉の適用枠が拡大され、確定申告の必要経費枠が少しばかり大きくなったと言って、愚かなおまえたちは喜んでいるが、忘れるな、一切が無法におこなわれていることを。行政機関も手続きも、何も変わりがないと愚かなおまえたちは抗弁する。司法書士も弁護士も、前と同じ料金を取る、と愚かなおまえたちは主張する。だが、それはおまえたちの目にそう見えているだけなのだ。同じように見えたとしても、一切は無法の上に成り立っている。行政機関にも手続きにも、いまや前と同じ根拠はない。司法書士も弁護士も無法に料金を定めている。そしておまえたちは無法に定められた料金を無法に支払い、無法に働いて無法に報酬を受け取り、無法に買い物をして、無法に税金を払っている。世界は邪悪な黒い力の陰に沈み、骨の髄まで悪に染まった。無法の時代が始まったいま、ありとあらゆるものが無法となった。犯罪が無法であるように、善意によるおこないも無法となり、両者の区別はなくなった。聞けっ。愚かなおまえたちはよく聞くがいい。世界は千年続く闇に閉ざされようとしているのだ」
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