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それから三年後、クロエとキュンは蛮族が暮らす土地を目指して海辺の道をたどっていた。風が荒び、波が泡立ち、吹き寄せるしぶきが道を濡らした。千年にわたる平和と繁栄の時代は終わりを告げ、世界は邪悪な黒い力にしたがっていた。勇者は倒れ、王たちは国を追われ、あらゆる場所で無法と暴力がはびこっていた。司法は機能を失い、通貨は信用を失い、経済はことごとくが地下にもぐり、国家は税収を失って次々に死に絶え、職を失った公務員はいまや邪悪な黒い力の配下となって前と同じ仕事を続けていた。邪悪な黒い力は光を追いやり、治安と秩序を回復し、通貨の信用を取り戻した。人々が暗黒の支配の下でなんとか生活を取り戻すと予言者たちが現われて、再び聞けっと叫び始めた。運命によって選ばれた勇者が世界を救うために立ち上がろうとしているという。邪悪な黒い力を討ち倒して、千年にわたる平和と繁栄の時代をもたらすという。その勇者はどこにいるのか、どこからやって来て、そしてどのように戦うのか。人々がたずねると予言者たちは南の方角を指差した。勇者ははるか南の蛮族が住む土地にいるという。そこで目覚めのときが来るのを待っているという。目覚めのときはいつ来るのか。人々はたずねた。間もなくだ。予言者たちは声をそろえた。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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