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「わたしは大宇宙の偉大な力にしたがっていた」と所長は言った。「直腸から語りかける声が骨盤を震わせ、背骨を伝って頭の中で響いていた。その声にあらがうことはできなかった。わたしは声にしたがうことであらゆる疑念から解放され、ただひたすらにギュンとピュンとを追い求めた。ギュンとピュンを追って迷宮に踏み込み、そこでいくらもしないで慄然とする思いを味わった。忘れてもらっては困るが、わたしは監獄の責任者であり、監獄に付属する迷宮も、当然ながらわたしの管理下にある。その迷宮の壁に穴が開いていた。いくつもの穴が開いていた。穴の向こうにも穴があった。破壊の痕跡を見れば、壁が要求仕様を満たしていないことはあきらかだった。公開入札で落札した得体の知れない外国企業が手抜き工事をしていたのだ。誰かが袖の下を受け取って、わたしの迷宮の壁をボール紙で作ったのだ。わたしは強い怒りを感じた。わたしの怒りはギュンとピュンに向かっていった。わたしはギュンとピュンを探して通路を進み、そこで再び慄然とする思いを味わった。迷宮の怪物たちが死体になって転がっていた。監獄が国家から供用されている怪物たちが殺されて、死体になって転がっていた。国有財産が死体になって転がっていた。わたしは短時間のうちに重大な不正の証拠と重大な損失の証拠に遭遇した。わたしは激しい怒りを感じた。怒りの矛先をギュンとピュンに向けていった。ギュンとピュンをなんとかしなければならなかった。そしてもちろん、ヒュンをなんとかしなければならなかった」
Copyright c2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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