2016年2月23日火曜日

トポス(111) ピュンは立ち上がる。

(111)
「俺には俺の物語があった」とピュンは言った。「物語の最後で、俺はとうとう復讐を果たした。あのヒュンの胸にナイフを突き立てて、奴の息の根をとめてやった。俺の物語は俺の望みどおりに結末を迎えた。それなのに俺はちっともハッピーじゃない。なぜだか知らないけど空しさが募って、何をする気もなくなって、気がついたら魂の抜け殻みたいなことになっていて、酒に溺れて倒れていた。そこへギュンが現われた。すごいことを始めたから、俺に手を貸せって、そう言ったんだ。なんて答えたのか、おぼえてない。なにしろへべれけだったし、生きる目的を見失って、もうどうでもよくなっていた。とにかくギュンは俺に何かをやったんだ。気がついたらどこかに閉じ込められていた。気分は悪くなかったよ。酔いはすっかり醒めていた。なぜかハンマーを持っていて、闘志みたいなものが湧いてきて、大暴れしたいって気持ちでいっぱいになった。そしたらどこからか、ギュンの声が聞こえたんだ。頼むぞ、ピュンってギュンが叫んだ。すごい音がして、煙が吹き出て、気がついたら所長の子分の狩人の奴らが俺をずらっと囲んでた。戦ったよ。俺は倒れるまで戦った。倒れたところでまたギュンの声がした。戻れ、ピュンって、そう叫んだ。そしたらまたどこかに閉じ込められていた。怪我は完璧に治って、闘志満々みたいな感じになって、で、またギュンが叫んだんだ。頼むぞ、ピュンって。あとはもうその繰り返しさ。気がついたら、って、なんかそればっかりだけど、俺は地面に倒れてた。そこら中に穴が開いていたけど、まあ、俺って頑丈だからなんとか立ち上がったよ。びっくりしたね。まわりにあの狩人の奴らがごろごろ転がってた。潰されてたんだ。ぺちゃんこだよ。あれはひどい有様だった」

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