(112)
|
ネロエの声と影に導かれて、ヒュンは街道を進んでいた。ヒュンの隣にはショットガンを担いだクロエがいた。羊飼いの杖を担いだキュンもいた。そしてこの三人のあとにはそれぞれに得物を手にした蛮族の軍団がいた。獰猛で、精強を誇る蛮族の軍団はヒュンの指図を待たずに行動した。村を見つければ襲いかかり、男たちは皆殺しにして女たちを押し倒した。手当たり次第に叩き壊し、残った物には火を放った。町を見つければ包囲して、攻城兵器を繰り出した。投石機で石や動物の死骸を町に打ち込み、町の城壁の下まで穴を掘って、そこで豚の群れを焼き殺した。城壁が崩れるとなだれ込んで男も女も見境なしに叩き斬り、思い出したように女たちを押し倒し、略奪品の山を抱えて前進を続けた。いくつもの町や村が廃墟となって死体の山ができあがったが、クロエの心は晴れなかった。
街道を進むヒュンの前にネロエの影が浮かび上がった。
「わたしはネロエ」とネロエが言った。「急がなければなりません。邪悪な黒い力は気がついています。敵が戦力を結集して反撃に出る前に、邪悪な黒い力の本拠を叩かなければなりません」
「俺は運命を受け入れている」とヒュンが叫んだ。「俺は世界を救う英雄になる。だから俺は邪悪な黒い力と戦うんだ」
「でもよ」キュンが言った。「その本拠って、どこにあるんだよ?」
ヒュンがキュンの頬を叩いた。
「それで」クロエが言った。「その本拠はどこにあるの?」
ネロエの影が消え、巨大な壁が空に大きく浮かび上がった。壁の中央に楔形の割れ目があり、その割れ目が黒々とした罪を吐き出していた。クロエが、キュンが、息を呑んだ。蛮族の男たちがおののいた。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
街道を進むヒュンの前にネロエの影が浮かび上がった。
「わたしはネロエ」とネロエが言った。「急がなければなりません。邪悪な黒い力は気がついています。敵が戦力を結集して反撃に出る前に、邪悪な黒い力の本拠を叩かなければなりません」
「俺は運命を受け入れている」とヒュンが叫んだ。「俺は世界を救う英雄になる。だから俺は邪悪な黒い力と戦うんだ」
「でもよ」キュンが言った。「その本拠って、どこにあるんだよ?」
ヒュンがキュンの頬を叩いた。
「それで」クロエが言った。「その本拠はどこにあるの?」
ネロエの影が消え、巨大な壁が空に大きく浮かび上がった。壁の中央に楔形の割れ目があり、その割れ目が黒々とした罪を吐き出していた。クロエが、キュンが、息を呑んだ。蛮族の男たちがおののいた。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.