(115)
|
「予言が成就しつつあった」とミュンが言った。「千年にわたる平和と繁栄は廃れ、邪悪な黒い力による闇の支配が始まった。空には暗雲がひしめき、大地は無法の色に染まっていた。わたしは法によって自由を奪われたが、無法もまた、わたしの自由を奪おうとした。看守は無法なふるまいによって囚人をしいたげ、囚人は法による拘束から解放されて無法を求める叫びを放った。無法の時代とは法が機能しない時代である。法が存在しない時代である。正義と理性は個人の内面でのみ輝き、正義を求める強い意志と清明な理性が囚人のあいだに広がったとき、古い成文法に代わって新しい自然法が産声を上げた。囚人たちは集会を開いてコモンセンスの存在を仮定し、議論を重ねることで社会契約に関わる一般認識を確立した。この認識にしたがうならば、法の殻をまとった無法はただちに打倒されなければならなかった。囚人たちは革命の段階に移り、行動を起こして無法な看守たちを排除した。無法の象徴である刑務所に火を放ち、手に手に得物を持って街道を進み、村を見つければ襲いかかり、男たちは皆殺しにして女たちを押し倒した。町を見つければ進歩的理念を唱えながら七回にわたって城壁をめぐり、理念の力によって城壁が崩れ落ちるとなだれ込んで男も女も見境なしに叩き斬り、思い出したように女たちを押し倒し、略奪品の山を抱えて前進を続けた。予言が成就しつつあった」とミュンが言った。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.