2007年 日本 129分
監督:今井夏木
高校一年生の美嘉はなくした携帯を図書室で発見するがアドレス帳がことごとく削除されて、そこへ電話をかけてきた声の主が自分の犯行であることを告げ、美嘉に関心を抱いているなら美嘉からかけるまでもなくかけてくるはずであるとアドレス帳の無効を宣言して、夏のあいだ名前も姿も隠したまま電話によるコンタクトを保ち、9月の始業式で初めて姿を現わすと美嘉とヒロとは恋仲になり、美嘉はヒロの部屋で交接を経験し、美嘉はヒロの前の恋人の差し金でお花畑でレイプされ、さらに悪評をふりまかれ、美嘉は必ず美嘉を守ると宣言するヒロに抱かれて図書室で再び交接を経験し、美嘉がこの交接によって妊娠するとヒロはそれまでの金髪を黒髪にしてスーツ姿で美嘉の両親の前に現われ、美嘉はヒロとともに生まれてくる赤ん坊のことを考えて未来の家族を夢に描き、美嘉はヒロの前の恋人に突き飛ばされて流産し、ここまでで高校一年のクリスマスなので展開が速いのに驚くが、高校二年の春になると美嘉はヒロから別れを言い渡され、美嘉はヒロに心を残したまま高校三年になって大学生の恋人を作り、それから大学生になり、その一年目のクリスマスイブに美嘉がヒロが自分の前から去った理由を知り、美嘉はヒロの病床にかけつけ、美嘉は死の床にあるヒロの看病にふけり、美嘉はヒロを見送り、美嘉はヒロの日記からヒロがつねに美嘉を見ていたことを知り、それらすべてを三年後に思い起こして感慨にふける。
つまりヒロインは純愛という自分の劣情にしたがって男を消費したのである。男は悲劇の渦中に置かれたヒロインの劣情に奉仕するために登場し、セックスもレイプも状況を確保するための記号に過ぎず、ヒロインの身に何が起ころうとすべては同じ次元で展開し、ヒロインは決して実質的な被害を受けないので物理的なリアリズムを必要としない。たった一つの目的に沿って思いつく限りに雑念を並べているという点でまったく無駄のない、揺らぎのない内容であり、その内容はことさらに淡々とした演出によって噛まずに飲み込めるものとなっている。ヒロインの退屈さも含めて、おそらくはデザインされた結果であろう。TSUTAYA ONLINEのアンケートで十代から三十代の女性から泣ける映画ナンバーワンに選べれているというのもうなずける。ただし正確には泣ける映画ではなく抜ける映画と言うべきかもしれない。
Tetsuya Sato