Battle of the Bulge
1965年 アメリカ 167分
監督:ケン・アナキン
1944年12月。連合軍はクリスマス気分に浸っていたが、ドイツ軍は姿を隠して大反攻作戦の準備をおこなっていた。一方、アメリカ軍のカイリー中佐は刑事時代に培った長年の勘で前線の静けさを怪しいと睨むが、アンブレーヴに司令部を置く暗愚なグレイ将軍やさらに暗愚な副官はカイリー中佐の勘を信じようとしない。そして中佐は証拠を求めて空を飛び、廃虚の地下に隠されたドイツ軍の秘密司令部には東部戦線からヘスラー大佐が呼び戻されて新たな戦車部隊の指揮官に任命される。
やがて天候が悪化して航空機の飛行が不可能になり、ドイツ軍は反撃に動き出す。連合軍兵士は各所でドイツ軍の攻撃に遭遇して総崩れとなり、そこへMPに偽装したドイツ軍兵士が道標などを変えたりするものだから大混乱に陥っていく。連合軍は戦線全体で撤退に移り、後方で反撃の機会をうかがうが、霧に阻まれてドイツ軍の位置を確認できない。そこで再びカイリー中佐が空を飛び、霧の中でエンジンを止めて耳を澄まし、音と目でドイツ軍の位置を確かめる。ドイツ軍戦車部隊は連合軍の燃料集積所を目指して進んでいた。弱点は燃料だ、ということで連合軍の戦車部隊はただ燃料を空費させるために犠牲を払い、いよいよ燃料がなくなったドイツ軍戦車部隊は燃料集積所に迫っていく。
シネラマ(公開当時)の超大作である。ただし連合軍側で頭を働かせているのはカイリー中佐だけ、それももっぱら勘にしたがっているだけだし、推理をするところでもドイツ軍の燃料ホースや空のドラム缶といった記号が情報として像を結ぶまでに時間がかかりすぎていて、なんだかひどく頭の悪い話になっている。対するヘスラー大佐はポーランド侵攻以来の英雄ということになっているが、この時点で大佐どまり、というところがすでに知れているし(ヘンリー・フォンダのカイリー中佐とバランスを取ったのか?)、米兵が実家から送られたケーキを所持していた、という事実にうろたえて、大西洋の彼方からケーキを運んできて兵卒に届けてしまうこの資力と戦意をくじかなければ、と言い始めて目の前にあるアンブレーヴの町を攻撃して、結果として作戦を遅らせたりするのである。こちらもあまり頭がよさそうには見えない。ちなみに、このヘスラー大佐はつまるところ戦争好きで、戦争ならばいつまででもやっていたいと考えているひとだったので、従卒のコンラート伍長はそのことを知ると、自分の良心にしたがって任務を拒否してしまう。で、そのコンラート伍長を演じていたハンス・クリスチャン・ブレヒという俳優は『レマゲン鉄橋』のシュミット大尉も演じていて、このときは上官クルーガー少佐の無謀な命令を自分の良心にしたがって拒絶していた。善良そうなおじいさんという感じのひとで、だからそういう役がまわってくるのであろう。とはいえ、ロバート・ショウのヘスラー大佐はそれなりに印象的な人物像として描かれているし、意気盛んなドイツ軍戦車隊、ドイツ軍の特殊部隊、戦争を私物化している兵隊(テリー・サバラス)といった諸様相もよく押し込んであって、ミニチュアが寒い、セット撮影が多い、悪天候に見舞われている冬のベルギーの話なのに気がつくとスペインの太陽が輝いている、いくらなんでもM48をタイガー戦車と言い繕うには無理があろう、といった欠陥にもかかわらず、見どころは決して少なくはない。
Tetsuya Sato