2015年7月28日火曜日

Plan-B/ 遺産

S7-E03
遺産
 一度も会ったことのない叔父が、わたしに多額の遺産を残して死んだ。遺産を受け取るための条件がいくつか指定されていたが、金遣いの荒い女に捕まって、借金取りに追われていたわたしには条件を吟味している時間はなかった。弁護士が差し出すすべての書類に署名して、女を連れて叔父の屋敷に飛んでいった。恐ろしく陰気な屋敷だったが、署名したので改装することはできなかった。使用人が変人ばかりだったが、署名したので解雇することはできなかった。せめて料理人だけでも入れ替えてくれと連れの女が懇願したが、署名したので入れ替えることはできなかった。屋敷の地下には底の知れない穴があった。使用人の話によると、穴の中には叔父が太古の秘術を使って宇宙の彼方から呼び寄せた異形の神々が潜んでいた。わたしは署名をしていたので、この穴にも穴の中の神々にも手を触れることはできなかった。わたしは署名をしていたので、異形の神々を崇める司祭になった。わたしは署名をしていたので、異形の神々を崇める儀式をおこない、連れの女を生け贄に捧げた。署名をしたからというわけではなかったが、次々とやって来る借金取りも生け贄に捧げた。署名をしたおかげで、わたしの心は満たされていった。神々はわたしの呼びかけにこたえ、わたしは我が身を捧げる準備に取りかかった。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.