S6-E32
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義父
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わたしは異郷の地を旅して、そこで激しい恋に落ちた。わたしは情熱のほむらに焼かれて彼女を求め、ただちに求婚者となって彼女の父親の家を訪れたが、そこに彼女の父親はいなかった。父親は川にいるということだったので、わたしは父親を探しに川へいった。父親はたしかに川にいたが、わたしが話しかけようとするといきなり水に飛び込んで鰐に変身した。わたしがかまわずに話を続けると水を叩いて河馬に変わり、わたしが決意を告げると水鳥になって舞い上がってわたしの頭に糞を落とした。わたしは川辺から離れて物陰に隠れた。息をひそめて見ていると父親は水鳥から蛇に変わり、楽しげにとぐろを巻くと水色の亀に変身した。わたしはその瞬間に前に飛び出し、甲羅を掴んで父親を捕えた。すると父親は棘の生えた蜥蜴に変わり、あるいは毒を吐き出す蛙に変わり、そうかと思うと神とも見紛う美青年に変身したり、女神もうらやむ絶世の美女に変身したり、鼻水を垂らした赤ん坊になったり、自我に毛を生やしたいけ好かない十代の少年になったり、杖を振って暴れる三白眼の老人になったりしたが、わたしが決して手を放そうとしなかったので、とうとう根負けして父親の正体を現わした。わたしは彼女の父親を川原に叩き伏せて決断を求め、許しを得て彼女を我が物とした。彼女はわたしのよい妻となった。しかし彼女の父親は、いまになってもわたしに会うことを拒んでいる。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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