S6-E24
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漁師
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取り柄のない村で生まれた若者が湖畔の村を訪れて、そこで若い漁師たちをそそのかした。そそのかされた漁師たちは網を捨てて、近隣で議論を吹っかけてまわったが、間もなく長老たちににらまれたので湖の対岸に渡ることにした。湖を渡っているうちに風が吹いて嵐になり、漁師たちの小舟は大波にもまれた。漁師たちは帆を下ろして、揺れる小舟を波に預けた。それぞれに船縁を掴んで死の恐怖を味わっていると、取り柄のない村から来た若者が小舟の艫で立ち上がった。小舟には漁師たちだけで乗り込んだので若者がそこにいるはずがなかったが、漁師たちは若者を見て驚くよりも若者の命を強く案じて、若者に向かって腰を下げろ船縁を掴めと声をかけた。ところが若者は立ち上がったまま、自分がいかに漁師たちの目を欺いて小舟の艫に隠れたか、その経略について仔細にわたる説明を始めて、嵐が過ぎて小舟が対岸にたどり着くまで口を閉ざそうとしなかった。漁師たちは若者のこのふるまいを見て、これは大きな取り柄であると感じ入った。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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