Deer Hunter
1978年 アメリカ 183分
監督: マイケル・チミノ
ペンシルバニアに鉄工を主要産業とするロシア系移民の町があり、そこに暮らす若者たちが徴兵されてベトナム戦争に送り込まれる。やがて捕虜になって北ベトナム軍の虐待を受け、過酷なロシアン・ルーレットに挑戦して反撃を加え、捕虜収容所を逃げ出して生還を果たす。だが心はすでに傷を負い、昔には戻れなくなっている、というような話をまず1時間、結婚式、1時間がベトナム、最後の1時間を情緒に流すというひどく単純な枠組みで構成している。それぞれの場面はそれなりに見ごたえがあり、ロバート・デ・ニーロをはじめとする出演者の熱演ぶりにもただ感心させられる。ビルモス・ジグモンドの撮影はすごいし、ジョン・ウィリアム(ギター)の音楽もよい。すべてをとにかくまとめあげたマイケル・チミノの手腕も当然評価されるべきであろう。問題はベトナム戦争の傷跡というこの手前勝手なテーマをどう解釈するか、ということになるのだろうけれど、思うに肝心なところは「ベトナム戦争」そのものではなくてベトナム戦争の「傷跡」の方であり、その範囲に限って言えば、それは60年代からのヒッピー・ムーブメントを含めて初めからアメリカの国内問題だったということになるのではあるまいか。そうだとすると、徴兵猶予された間抜けな若造が唾を引っかけていた相手は、実は善良な労働者階級の息子たちで、休日には森へ入って鹿を撃ち殺している下衆野郎だが、それでもちゃんと心があるし、その心に傷を負えば鹿を殺すのにも躊躇するようになるという、どちらかと言えば当たり前のことが説明されているだけなのである。この映画が公開されるまで、誰がベトナムへ行っていたのか、アメリカ人はよく知らなかったのかもしれない。
Tetsuya Sato