Apocalypse Now
1979年 アメリカ 155分
監督・脚本:フランシス・フォード・コッポラ
ここに描かれているのはベトナム戦争ではない。現代の戦争ですらない。どちらかと言えばホメロスの「イリアス」に近い。アルカイックな精神を背景とした神話の世界だと言った方が正確かもしれない。
マーチン・シーンはそのままオイディプスだし、マーロン・ブランドのカーツ大佐は心を狂わせたアガメムノンであり、キルゴア中佐はトロイアの渚に集うギリシアの武将の諸々の表象の集合体である。まさにその理由によって空輸騎兵は牛を運び、牛を屠り、浜に集って肉を焼くのである。映画の舞台が現代であることによって何か違いが生じているのだとすれば、おそらく罪の前にすでに黄泉の国が横たわり、親殺しに先立ってそこを潜り抜けなければならないという逆転であろう。我々のモラルはすでに古代と多くの点で異なっているので、父性を確認するために川を溯りながら書類を読まなければならなかったのである。これは映画史上、最高の叙事詩だ。
Tetsuya Sato