2013年10月12日土曜日

エニグマ

エニグマ
Enigma
2001年 イギリス/アメリカ/ドイツ/オランダ 119分
監督:マイケル・アプテッド

1943年のイギリス。数学者トム・ジェリコは神経衰弱に陥って政府の暗号解読機関からひと月ほど離れていたが、急遽呼び戻されて再び任務につくことになる。ドイツ軍側が突如として暗号を変更したからであったが、そうなったことの背後にはどうやらスパイの存在があり、情報機関から派遣されてきた世にも陰険な諜報員が飄々として捜査活動にあたっている。一方、海軍は大西洋で問題を抱えていて、アメリカを出発した三つの輸送船団がドイツのUボート艦隊に狙われているが、その位置を掴むことができないという。情報を探るためには暗号を解読しなければならず、暗号を解読するためには新たな鍵を見つけなければならないが、海軍に与えられた猶予期間は四日に過ぎず、トム・ジェリコの予測によれば解読には十か月を必要とした。そしてそれはそれとしてトム・ジェリコには神経衰弱になった原因があり、情報機関から送り込まれた陰険な諜報員がジェリコにつきまとうのもそのことと無関係ではなかったが、つまりジェリコは女性関係で悩みがあって、しかもその相手であった女性が二日も前から行方不明になっていた。というわけでジェリコは仕事はそっちのけで元恋人クレアの失踪の原因を探り、陰険な諜報員はジェリコの前に再三現われ、クレアのルームメイトであったウォレス嬢は探偵ごっこにのめり込み、そうしているあいだもスパイはどこかで活動を続け、しかも大西洋ではUボートの群れが輸送船団を待ち構えているのであった。
どことなく話の詰めが甘く見えるのは、非情な功利主義をプロットに折り込みながら、それを手短に片づけようとしているためであろう。その点を除けば快調な作品であり、マイケル・アプテッドの手際のいい演出は見ていて実に心地よい。リズムがいいのである。加えて数学者たちはそれらしいし、官僚機構はどうしようもないし、諜報員は陰険だし、官憲は戦時下でも活発に活動しているし、戦争で動員された女たちは男性優位主義の豚野郎に怒りを抱いて働いている。話のほとんどは暗号解読センターの周辺で展開するが、舞台となるセンター自体の描写がかなり分厚いし、ほかにも輸送船団とそれを狙うUボート、東部戦線のドイツ軍、カタリナ飛行艇、徹夜明けで爆睡しているケイト・ウィンスレット、といった具合に見ごたえのある場面がたくさんあって、とてもお得な映画であった。


Tetsuya Sato