2013年10月15日火曜日

フルメタル・ジャケット

フルメタル・ジャケット
Full Metal Jacket
1987年 アメリカ 116分
監督:スタンリー・キューブリック

イギリスロケのベトナム戦争映画というのは当然のことながら天気が悪い。ところどころに取ってつけたようなヤシの木が生えているけれど、これも低温と曇天で元気がなくてうなだれている。もちろんこれはこの映画を見る上で重要な要素ではないが、やはり気になる。
第一部:訓練、第二部:戦場といういつもの二部構成になっていて、まず第一部はよくできたドキュメンタリー映画に見える。実際、狙いもそうなのだと思う。だからそれだけに第一部の最後の場面の流血がひどく白々しい。それまでそれなりにリアルな世界が展開していたものが、その瞬間にまがい物に転じる。軍曹の胸から血が文字どおりどぴゅっと飛び出すというあのショットは必要だったのか。弾丸がこっちから入っているのに血糊がこっちへ飛び出すというのはいかにも変だし、せめて穴が開いたくらいの描写にして倒れて終わりでも十分に意味は通じたと思う。
第二部の寒そうなベトナムの海兵隊の展開シーンは描きこまれた物量に感心する。しかし兵士たちのインタビューの場面は苦痛を感じるほど長い。ようやく部隊が動き始めるとほっとする。戦闘シーンは全体によいと思う。特に兵士たちの発砲のまとまりの悪さはうまくできている。しかしジョーカー二等兵の苦悩は長すぎる。それがまた撃った後の苦悩なので身勝手が際立ってちょっといらいらする。だったら最初から撃たずに撃たれていればいいなどと考えているうちにやっと苦悩の時間が終わってミッキーマウス・マーチがやってくる。ミッキーマウス・マーチの場面はとてもきれいだが、しかしいったいこの兵隊は何を指して「もう恐れはしない」と言っているのか。


Tetsuya Sato