Spectre
2015年 イギリス/アメリカ 148分
監督:サム・メンデス
前任のMの遺言にしたがって暗殺者ルチア・スキアラを追っていたジェームズ・ボンドは死者の祭りでにぎわうメキシコシティで大立ち回りをやらかし、ロンドンに戻ったジェームズ・ボンドはMから無期限定職を言い渡され、政府官僚マックス・デンビは00セクションの解体を匂わせ、そうするあいだにもMi6は本部ビルを失ってMi5に吸収され、さらに英国の諜報機関自体が9か国からなるいかがわしい国際機関に改組されて、民間資本で作られたその本部ビルは早くも廃墟と化したMi6本部ビルの真向かいで醜悪な現代建築ぶりをさらし、一方、単独行で敵を追うジェームズ・ボンドは手がかりを求めてイタリアに飛び、そこで謀略組織スペクターの存在を知り、スペクターを仕切るオーベルハウザーの手がかりを求めてオーストリアに飛び、手がかりを得てマドレーヌ・スワンとともにタンジールへ飛び、そこでさらに手がかりを見つけて砂漠の奥へ入り込み、スペクターの秘密基地を発見して正面から入っていくと、オーベルハウザーが現われて母方の姓ブロフェルドを名乗る。
ブロフェルドがクリストフ・ヴァルツ、スキアラの妻がモニカ・ベルッチ、軽量級官僚マックス・デンビがBBC版『シャーロック』でモリアティをやっていたアンドリュー・スコット。序盤のメキシコシティでの航空アクションからローマでの官能的なカーチェイス、アルプスでの飛行機対4WDの追撃戦、砂漠を進む列車内での格闘と派手なシーンに不足はないが、きわめて美しいカメラワークはそのことごとくに閉塞感と距離感をまぶし、カメラはほぼ終始一貫してうつむき加減で、たまに見上げても廃墟のようなものが空を覆い隠している。このデザインは『ロード・トゥ・パーディション』を思い出させる。どこか薄暗くて重たくて、動機に怨恨が混じっているという点では『スカイフォール』に似ているが、密度は高く、スタイルも凝縮されている。薄暗い割には人物が軽量化されている分、なめらかな仕上がりになったのかもしれない。あえて文句を言えばここに登場するスペクターの正体、偽薬の販売をやってWHOに目をつけられ、ヒューマントラフィックにも深くかかわり、あげくに各国諜報機関の情報収集をアウトソーシングで請け負っている。卓越した情報収集能力で入札時の予定価格を手に入れて、競合他社を蹴落としたのであろうか、などとつい考えてしまうほど夢がない。ともあれ、造形的にはきわめて美しい作品であることに間違いはない。