(59)
|
怒りに染まった民衆が門を破って城になだれ込んだころ、ピュンは失った歯を探して泉のほとりに立っていた。途方に暮れていると水を破って泉の精が現われた。ピュンに金の歯を差し出して、おまえがなくしたのはこの金の歯かとたずねたので、ピュンは違うと言って首を振った。すると泉の精はピュンに銀の歯を差し出して、おまえがなくしたのはこの銀の歯かとたずねたので、ピュンは違うと言って首を振った。最後に泉の精はピュンにピュンの歯を差し出して、おまえがなくしたのはこの歯垢まみれの歯かとたずねたので、ピュンはそうだと言ってうなずいた。なんと正直なことか、と泉の精はピュンに言った。ではこの歯垢まみれの歯を取るがよい、この金の歯も銀の歯も取るがよい。筋骨たくましい二人の歯医者がピュンの腕をがっしりとつかんだ。古びた歯医者の椅子に縛りつけて口をこじ開け、古びた歯医者の道具を使って金の歯や銀の歯や歯垢まみれの歯を力まかせに植えつけていった。ピュンの口から悲鳴がもれた。ピュンの両目が恐怖にわななき、ピュンの口から血が流れた。意識が薄れて、目がすぐに闇に覆われた。気がつくと泉のほとりに転がっていた。血まみれの口を水でゆすぎ、口の中を水に映して悲鳴を上げた。歯垢まみれの歯のうしろには、輝く金の歯が並んでいた。輝く金の歯のうしろには、輝く銀の歯が並んでいた。金の歯も銀の歯も、どれもがサメの歯のようにとがっていた。そして怒りに染まった民衆は城の階段を駆け上がってヒュンの前に殺到した。キュンが羊飼いの杖をかまえ、クロエがショットガンを腰でかまえた。ヒュンの姿が消滅した。ヒュンが立っていた場所には不格好なロボットがいた。
くくくくく、とロボットが笑った。
Copyright c2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
くくくくく、とロボットが笑った。
Copyright c2015 Tetsuya Sato All rights reserved.