2015年8月6日木曜日

Plan-B/ 色彩

S7-E11
色彩
 夜の闇の向こうから、喉を震わせて笑うような耳障りな音が聞こえてきた。初めは蛙が鳴いているのかと思ったが、雪に閉ざされた岩山に蛙はいない。仲間の一人が夜空に向かって松明を掲げ、わたしはそれを合図にライフルをかまえた。吐く息が白い。気配があった。見えない何かが近くにいた。おびえた案内人が走り出して、見えない何かに捕えられて悲鳴を上げた。松明の炎に照らされて、案内人のからだがしぼんでいく。皮膚を骨に貼りつけて、見る間にミイラのような姿になっていく。わたしは発砲した。狙ったつもりはなかったが、弾は案内人に命中した。慈悲の弾が断末魔の苦しみを少しでもやわらげたと信じたい。案内人のしぼんだからだがごみのように投げ出され、異様な色を次々に重ね合わせてそれが姿を現わした。絡み合う管のかたまりのような怪物が宙に浮かんで、耳障りな声で笑っていた。近づき過ぎた仲間の一人が捕えられた。わたしはもう一度発砲した。狙ったつもりはなかったが、弾は仲間に命中した。慈悲の弾が断末魔の苦しみを少しでもやわらげたと信じたい。わたしはその場にライフルを捨てて、一目散に逃げ出した。

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