S7-E10
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納屋
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納屋の奥の藁の上に、一人の男が転がっていた。頭髪を失い、体毛も失い、ぼろ同然の服をまとい、痩せこけて、後ろ手に縛られて、寒いのか、怖いのか、しきりにからだを震わせていた。顔や手に、いくつもの黄ばんだ斑点が浮かんでいる。中心が黒ずんで、わずかに血をにじませている。よく見ると、一つひとつが息をしていた。男は目を固く閉ざして、開こうとしない。口も固く閉ざして、開こうとしない。耳に向かってふつうに話しかけても返事はない。だが特別な、呪われた言葉には反応する。忌まわしい音には反応する。歓喜とも苦痛とも取れる表情で、背中を反らして痙攣する。行って、戻ってきた者が目の前にいた。どのようにして行ったのか、どのようにして戻ったのか、語るべき口は閉ざされていた。この世界にいても、心はあの世界にあるようだ。覚めることを忘れて、夢に浸っているようだ。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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