S7-E09
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覚醒
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あれに触れてしばらくしてから、夜毎に同じ夢を見るようになり、やがてからだに徴が現われて、何かが始まっていることに気がついた。いつの間にか、不思議な声を聞くようになり、声に耳を傾けているうちに、形にならない渇望が心の底から浮かび上がった。嗜好が変わり、好きだった物が嫌いになり、行動も変わり、知らぬ間に日常生活を見失った。食べることも飲むことも厭わしくなり、部屋にこもって不安を味わい、あるいは興奮と衝動に我を忘れ、ときには突然の恐怖に襲われて我が身をかきむしった。日毎に容貌が変わっていった。頭髪が落ち、体毛が抜け、光彩が色を失った。歯が抜けた。爪が剥がれて落ちていったた。無数の息をからだに聞き、光がある場所で闇を見つけた。いまはもう、入口が見える。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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