S1-E05
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渋滞
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男はハンドルを叩いて毒づいた。進めない。この一時間で二十メートルも進んでいない。数珠つなぎになった車のせいで前が見えない。どちらの車線も町から逃げ出す車で埋まっている。歩くべきだった。歩いたほうが早かった。すぐ脇の歩道をパジャマ姿の男が歩いていた。光のない目をどこかに向けて、手を前に差し出して、冷えて固まった脚を動かして、どこかに向かって歩いていた。近づいてくる。男はハンドルを握り締めた。逃げ場を求めて助手席側のドアを見た。隣の車が邪魔で開けられない。グローブボックスを手探りする。武器などない。近づいてくる。汚れたパジャマ姿の死人が近づいてくる。光のない目でどこかをにらんで、固めたこぶしを窓に叩きつけてきた。死人の背後にも死人がいる。まだいる。まだまだいる。
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