S1-E08
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光
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ペントハウスの広いテラスをバスローブをまとった娘が歩いていく。プールの縁に立ってバスローブを脱ぎ捨て、水着姿になると雲を映す水に飛び込んだ。腕を差して、力を込めて泳ぎ始める。しばらくしてから異様な気配を感じ取った。水をかいても、なぜか前に進めない。からだが妙な具合に浮かび上がる。空は曇っているのに妙に明るい。気がついたときには娘は光に包まれていた。逃れることはできなかった。光が放つ不自然な力で娘は水から引きずり出された。昇っていく。しずくを垂らしながらプールを見下ろし、ペントハウスのある建物を見下ろし、急速に遠ざかる町並みを見下ろし、悲鳴を上げながら光をたどって雲のあいだに消えていった。
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