助けを求める声が聞こえる。
灰色のいたちがぼくに言った。
助けを求める声が聞こえる。
灰色のいたちが繰り返した。
荒れ野の先の穢れた沼で、誰かがナマズに食われていた。身の丈がおとなの倍ほどもある大きなナマズに下半身をくわえ込まれて、逃れようとミドロの浮いた水を叩き、腐った水を飲み込みながら助けを求めて叫んでいた。ナマズが顎を動かすと、からだがずるりと口のなかへ消えていった。必死になってあらがってみても、とがった歯がからだに食い込んでいるので逃れることはできなかった。
食われたところで死ぬわけではない。
森の老人はそう言った。
あれはナマズのなかで生き続ける。
森の老人はそう言った。
ナマズが殺されるまで、ナマズのなかで生き続ける。
森の老人はそう言った。
だからナマズが死ねばあれも死ぬ。
森の老人はそう言った。
いつのことかはわからないが。
森の老人はそう言った。
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