助けを求める声が聞こえる。
灰色のいたちがぼくに言った。
助けを求める声が聞こえる。
灰色のいたちが繰り返した。
荒れ野のなかの道が十字に交わる場所で、子供が助けを求めて叫んでいた。凍てつく風が丈の高い草をなぎ払って、涙に濡れた子供の顔を空にさらした。地面から生えた太い腕が足をしっかり掴んでいるので、子供はそこから逃れることができなかった。どうあらがっても、鉤のような爪が足に食い込んでいるので逃れることができなかった。
あれは五十年もあそこでああしている。
森の老人はそう言った。
腕から逃れることができずにいる。
森の老人はそう言った。
だから老いることも、死ぬこともない。
森の老人はそう言った。
あれの親は、あれのことをもう忘れた。
森の老人はそう言った。
親が忘れたので、あれの名はない。
森の老人はそう言った。
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