Captain Phillips
2013年 アメリカ 134分
監督:ポール・グリーングラス
2009年4月、リチャード・フィリップス船長はマースク海運のコンテナ船アラバマを指揮してオマーンからケニアを目指していたが、ソマリア沖で二隻のボートに分乗した海賊の一団に遭遇したので海軍の接近を知らせる欺瞞の無線と高速航行でどうにか振り切り、一方アラバマ追跡でエンジンを焼き切った海賊一味は翌日一隻のボートにエンジンを二つ搭載して再び現われてアラバマに接近して乗り込むことに成功し、フィリップス船長は船員たちを機関室に隠すとブリッジに残って海賊の対応にあたって三万ドルの提供を申し入れるが、乗員の不在を怪しむ海賊たちは船内の捜索にかかって船員が仕掛けた罠で一人が負傷、リーダーは船員たちによって捕えられ、リーダーの返還を条件に海賊たちはアラバマから救命艇で退去することになるが、このときフィリップス船長も人質となって海賊とともにアラバマから離れ、ソマリアの海岸を目指して進む救命艇の背後にはアメリカ海軍のフリゲートが現われて人質返還の交渉を始め、応援のフリゲートと強襲揚陸艦が到着し、シールズが到着し、交渉人のことばによって海賊たち全員がその名前をあばかれる。
映画は訳知り顔に物語ることをやめて事件の経過を淡々と再現することに務め、ダイアログもカメラもニュートラルに徹して感情移入を阻み続ける。フィリップス船長をはじめとするアラバマの乗員やソマリアの海賊たちはかろうじて顔を備えているが、その顔は驚くほど凡庸で英雄でもなければ悪党でもない。その結果として浮かび上がるのはそれぞれの立場にある矮小な人間が抱えた決定的な価値の差であり、そこに現われた差は一方の価値が無条件に備えた不可解なほど無機質な力によって手早く刈り取られることになる。中盤以降でアメリカ海軍が示す機械的な動作は『戦艦ポチョムキン』でオデッサの階段に登場した軍隊に近接しているような気がしてならなかった。トム・ハンクスがちょっとすごい。
Tetsuya Sato