2013年 日本 116分
監督・脚本:宮崎駿
堀越二郎の少年時代から飛行機の設計技師になることを目指して東京へ出て、そこで関東大震災を経験し、三菱に入社して陸軍向けの試作機の失敗に立ち会い、ユンカースG38の技術導入のためにドイツへおもむき、帰国して海軍機の設計主任となって九試単座戦闘機の設計にあたるまで。
堀越二郎という一人のテクノクラートの視野に幻視と夢想を織り込みながら1920年代から30年代、最終的には敗戦を迎えるまでの歴史的なパースを大胆に象徴化するという手法が採用され、そこから立ち上がる暗雲は地獄のように重くて笑えない悲劇に満たされている。宮崎駿の語り口は自在で、空は果てしなく雄弁で風は確実に個性を抱き、風景はどこまでも美しく、そしてまがまがしい。我々はおそらく宮崎駿という傑出した作家による表現の集大成をここで見たことになるのだろう。複雑な構成は生半可な感想文でどうにかなるようなものではない。だからここでは、すごいものを見せられた、という感想にとどめておく。
冒頭、堀越二郎の夢のなかで飛ぶ飛行機が美しいし、20年代から30年代にかけて型式を変えながら走り続ける蒸気機関車が美しいし、飛行するユンカースG38の翼のなかを見ることができるし、カプロニC.60の無残な失敗を見ることもできるし、九二式重爆撃機の飛行、鳳翔とおぼしき空母の着艦、離艦のプロセスを見ることもできる。市電やバスまでが美しくて、動くものへの尽きせぬ愛着があふれていて、それだけでもとにかくおなかいっぱいになる。