Insomnia
2002年 アメリカ 118分
監督:クリストファー・ノーラン
ロスアンゼルス市警の殺人課の刑事二人が極圏の町へ捜査協力のために派遣される。少女が死体で見つかった事件を調べるためだが、実は内務調査を免れるために無理やりに送り出されてきたような気配がある。到着したその晩に、若い刑事は取引に応じた事実を告白し、それを聞いたベテランの刑事は食欲をなくして部屋に引き上げる。一方、殺人事件の捜査の方は犯人を罠にかけることに成功し、海辺に近い廃鉱で追跡劇が繰り広げられる。あたりは次第に霧に包まれ、ベテランの刑事は影に向かって発砲するが、それで射殺されたのは同僚の若い刑事であった。事故なのか、故殺なのか、判然としないままベテランの刑事は証拠を隠滅に取り掛かる。だが射殺の現場には目撃者がいて、それは追われていた当の殺人犯なのであった、ということでベテラン刑事がアル・パチーノ、殺人犯がロビン・ウィリアムス、現地で捜査に当たる若い刑事がヒラリー・スワンクというキャスティングで、事件が起こる町の名前がナイトミュート、白夜なので陽が隠れることがないという設定になっている。現地に慣れないアル・パチーノの刑事は眠りを奪われて悶々として、結局六日連続で徹夜をして幻覚や幻聴を見始める。このあたりの描写は生理的に納得できる仕上がりになっていたと思うし、白夜になって薄い光が常に散乱しているという感じがなんだか実にそれらしかった。撮影がうまいのであろう。撮ったままなのかどうなのか、風景や空間処理が全体にものすごくて、特に冒頭の氷河の場面などはちょっと息を飲む。
演出は生真面目だし、アル・パチーノは面の皮の厚い真面目な老警官という複雑な役を巧みに演じていたし、ロビン・ウィリアムも悪役を嬉しそうに演じていた(あの強さと身軽さの根拠がどこにあったのかは不明だし、あのように行動する根拠も薄弱だが)し、ヒラリー・スワンクもなかなかに魅力的で、見終わった後でなんとなく目の前がひどくちらちらするところを除けば悪いところのない映画である。つまり、これは才能なのであろう。
Tetsuya Sato