2013年6月20日木曜日

善き人のためのソナタ

善き人のためのソナタ
Das Leben der Anderen
2006年  ドイツ 138分
監督・脚本:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク

1984年の東ベルリン。国家保安省のヴィースラー大尉は劇作家ゲオルク・ドライデンとその恋人の女優クリスタ=マリア・ジーラントを監視する任務を担当し、屋根裏にひそんで盗聴器から届けられる音に耳を傾け、電話で交わされる会話を聞き、毎日のように報告書をしたためている。そうしていると芸術家たちは体制への恭順と反発のあいだで揺れ動き、自殺する者が現われ、心の痛みを込めて善き人のためのソナタが演奏され、ヴィースラーの心もまた動き始める。
美しく作られた立派な映画である。抑制されたタッチの精緻な演出と、出演者たちの演技がすばらしい。特にヴィースラー大尉を演じたウルリッヒ・ミューエが印象的で、ほとんど変わらない表情に孤独や温かみ、ユーモアまでも浮かべていた。脚本もよくできているが、主要な軸を構成するのはまずシュタージの「作戦」であり、組織の動きが裏も表も含めて細密に描かれ、抜け穴がないのに感心した。シュタージの内部の描写も登場し、取調室や資料保管庫、職員の食堂、地下に置かれた私信開封係の部屋などの珍しい光景を見ることができる。 

Tetsuya Sato